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書評 - 生産性 マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

今日一気に読み切りました。ありふれたテーマですが、コンパクトにまとめられているのでおすすめできます。

生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

 

生産性の定義

日本企業で生産性が軽視されているという話題から始まります。本書では生産性を以下のように定義しています。

生産性 = 得られた正解 ÷ 投入した資源

言い換えてアウトプット ÷ インプットとしています。

上記の生産性を上げようとすると、算数的には分子を増やすか分母を減らすかです。本書ではまず安易な分子の増やし方・分母の減らし方について言及しています。例えば前者は長時間残業、後者はコピー枚数を減らす等のコスト削減です。

業務を良い方向に変革させようとした場合、本書ではアプローチとして改善と革新の2種類があるとしています。大雑把に言ってしまうと改善は現行踏襲ベースによる効率上昇、革新は業務方式の変更による新方式を取ることを示します。この2種類のアプローチと先ほどの分子・分母を組み合わせると4種類の方策が考えられます。

  • 改善 + 分子の増加
  • 改善 + 分母の削減
  • 革新 + 分子の増加
  • 革新 + 分母の削減

国内企業では得てして「改善 + 分母の削減」に注目がいってしまっているというのが筆者の主張です。正直分からないでもない。

量より質を重視する

残業代という概念があります。残業代がある会社で働く労働者からすると、同じ仕事を長い時間かけて行った方が給料というインセンティブは増加することになります。これは短時間でたくさんの仕事をして欲しい会社の方針と完全に逆のモチベーションです。過去からの流れもあるので仕方ないところもあると思いますが、基本的には会社側に質での評価指標がないことが原因でしょう。そして質を重視する評価指標に変わった途端、従来の働き方をしている労働者のインセンティブにも悪影響が出る可能性があるため、ある意味では両者のモチベーションが一致しています。

生産性の向上を求められず、成果の絶対量を増やすよう求められた場合の管理職の行動

このタイトルは原文そのままです。以下の内容が箇条書されています。感慨深いのでそのまま引用します。

  • 部下にサービス残業をさせてでも成果を極大化する
  • 自分が残業や休日出勤をして成果を極大化する
  • できない社員を育てるより、できる社員に大量の仕事を割り振る
  • 自分の裁量で採用できるバイトや派遣社員を増やす
  • 部下が育児休暇や有給休暇を取得することを好ましく思わない
  • フルタイムで働けない人がじ部門に配属されることを嫌がる

総評すると、より長い時間働ける人が欲しい、に集約されます。思い当たることも多いような気がします。

放置される戦力外中高年

いわゆる出世競争から外れる等してやる気が削がれた人が居て、これらの人は組織に悪影響を与えるとしています。若手社員からは「使えないおじさん・おばさんを何で養わなきゃいけないのか」と思われたり、将来の自分の可能性の一つとして見られることにより、自社に所属し続けることのリスクとして考えられてしまう可能性すらあります。元上司が自分の部下になるケースもあるでしょう。大抵は人間関係がうまくいかないように思えます。

国内では無能を理由に解雇することのハードルが高いのが現状です。であれば無能な社員を減らす方向に組織が動くべきですが、先程の箇条書きの通り「できない社員を育てるより、できる社員に大量の仕事を割り振る」という行動に走りがちです。

本書では戦力外になってしまった社員に対して組織がいかに期待しているかをキチンとフィードバックすることの重要性を説いています。いい年こいた人に教育とかをするなんて、とか考えてしまいがちですが厳しさと優しさの履き違えと言わざるを得ない状況です。そもそも組織における中高年社員のウェイトはかなり大きいため、その社内リソースを捨てるのはもったいないはずです。

仕事の時間を計測する

新人に自分の生産性の低さを分からせるために時間測定をさせていることが書かれています。3年ほど前から私もやっていたのですが、仕事を行う際に見込み時間を定めた上で実績をスマホで測定します。初めの方は見込み時間と実績の乖離がものすごく激しくなるはずです。組織的にこの取組を行うと生産性を定量的に測定でき、嫌でも業務上のボトルネックが見えてきます。

仕事をサイロ化させない

ITの世界でも人手が足りないと判断されると、派遣社員等を一時的に雇い力技で業務を進めることがあります。プロジェクトマネジメント的には逐次的な人の増加はかえって効率を落とすとかそういう話もありますが、本書でこの対応方法について問題にしているのは、本質的には人を増やして業務量に対応するのは生産性を上げずに残業して対応することと同じだということです。仮にこれで業務が組織が許容する採算で完了した場合、生産性を上げるモチベーションが失われてしまいます。

 過去は価値があったが今はもう価値がない業務があります。何故やっているのか?どれほど量があるのか?誰もわからなくなっているような業務がたくさんあるのではないでしょうか。本書ではこうした業務の仕分けを行うことを推奨しています。これを行うことで、その業務を行う理由や必要なリソースが明確化されます。これにより、業務従事者が思いがちな「こんな仕事になんの意味があるのか」という疑問に回答し業務従事者の納得を得ることができます。思っていたよりコストがかかっていたというようなことを発見することもできるでしょう。

仕事の仕分けを行おうとすると出てくるのは、その業務従事者が自らの組織における価値が低下するのではと思い込み仕分けを阻止するような行動です。これは心理上仕方ないことなので、そもそも業務内容は日々変わるものだという意識を刷り込むべきでしょう。

本書にもそのまま記載されていますが、仕事ができる人は自らの仕事を他の人でもやれるようにノウハウを言語化するべきです。例えば情報セキュリティインシデントの定常的調査の手順化等が該当します。本当に自分の仕事は一子相伝にすべきなのかよく考えるべきでしょう。自分の価値を下げないためにノウハウを隠しているということはありませんか?

会議

定番の話題です。本書で謳っていることは、重要なのは会議時間の短縮ではなく会議の成果を高めることです。

個人的にイケてないと思う会議の特徴は以下を1個でも満たす場合です。

  • 会議資料が事前に共有されていない
  • 会議資料の概要を把握していない意思決定者がいる
  • 会議の招集連絡に会議の目的が書かれていない
  • 会議の招集連絡に書かれている内容が参集依頼しかない
  • 参加者が8人を超える
  • 会議のテーマに対する良し悪しの基準が存在しない
  • 判断の根拠となるデータが定量的でない

私もいつも気をつけています・・・・・・。

 

そんなわけで、2ヶ月くらいしたらもう一度読んでみたい本です。そして偉そうに言わせてもらうと、部長以上の役職の方々に是非読んでいただきたい本です。